昨年度の研究でベルグマン・ゼータ関数の原点での挙動が強擬凸領域のベルグマン体積要素に対する繰り込み体積と関係することが明らかとなったが、その後、繰り込み体積の具体的な計算については進展が得られなかった。そこで、強擬凸領域と共形コンペクトアインシュタイン多様体に注目し、共形幾何での繰り込み体積の研究を進めた。この場合の繰り込み体積は共形不変量であり、局所リーマン不変量であるQ-曲率の積分として表示することができる。まずこの表示を用いて繰り込み体積の共形構造の変形に関する変分がアンビエント計量の構成にあらわれる障害テンソルで与えられることを示した(平地-Graham担当)。この結果の強擬凸領域の場合への翻訳も行ったが、複素アンビエント計量の障害はスカラー関数になるため上述の変分は常に消えてしまい、自明でない繰り込み体積をもつ領域の構成には応用できなかった。 その後、障害テンソルが消えない場合のアンビエント計量の構成を考察した。アンビエント計量は共形構造に付随して定義されるリッチ平坦ローレンツ計量であり、奇数次元空間ではアンビエント計量が共形構造のすべての情報を含むことが知られている。偶数次元の場合に障害テンソルがアンビエント計量の特異部の係数として現れ、その曲率のジェットは有限次までしか意味を持たない。この障害を回避するため、アンビエント計量の平滑部分を取り出す方法をあたえ、平滑部分の曲率が共形構造のすべての情報を含むことを証明した。その応用として、すべての局所スカラー共形不変量がアンビエント計量のワイル不変量として表示できることを示した。
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