これまでの研究結果によりセゲー核の境界での漸近展開の係数ψはQ曲率と関係し、その積分がCR不変量(Lとよぶ)を与えることがわかってきた。今度はψおよびLの性質についてより詳しい解析を行った。 不変量LについてはPonge氏よりハイゼンベルグ解析に現れる非可換留数とのとの関係についての結果の連絡があり、彼を東京に招聘し研究を進めた。非可換留数を用いたCR不変量の定義をもちいればセゲー核だけでなく、様々なCR多様体上の射影子の核関数からCR不変量を定義することができ、またそのCR構造の無限小変形に関する不変生もわかる。また次元が4n-1のCR多様体ではLが消えるとこが明らかになった。その後、Boutet de Monvel氏より全ての次元でLが消えることを(ほぼ)証明したという連絡を受けたため、Lの研究は一旦中止し、Boutet氏の証明が完成するのを待つこととした。 ψについては3次元の場合にのみQ曲率との一次従属性が示されていたが、その高次元化を試みた。まずψのCR多重調和関数に関する不変性に注目し、その放物型不変式論を用いた解析をおこなった。これには自明な表現に対するBernstein-Gelfand-Gelfand resolutionに現れるCR多重列調和関数を特徴付ける不変微分作用素Pを用いることができる。とくに、球面でのψはPの像で定義された不変多項式と同一視できることを明らかにした。このような不変式については既に知られている放物型不変式論をもちいて、簡単な表示を与えることができる。結果としては5次元球面上でばψとQ曲率には一次関係はないが、非線形不変微分作用素に対応する新しいクラスのQ曲率として表示できることを明らかにした。
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