ベルグマン・ゼータ関数は定義関数rのs乗を重みとするベルグマン核の対角線上での積分をsの関数とみて解析接続することによって得られる複素平面上の有理型関数である。初年度はこの関数の極および留数の計算手法を研究し、留数のなかに領域の大域的な双正則不変量が現れることを証明し、またその不変量がセゲー核の対数項として定義される局所擬共形不変量ψの積分と一致することを明らかにした。複素2次元領域においてはψがCR不変微分作用素を用いて定義されるCR Q曲率と一致することを示すことができたが、高次元においてはψとCR Q曲率の比較は困難であった。そこで2年目からはQ曲率についての理解を深めるため、その起源となる共形幾何におけるQ曲率の研究も行った。Q曲率は共形微分作用素の次元に関する解析接続により得られるミステリアスな対象であった。そこでFefferman教授と共同で、Q曲率のアンビエント計量を用いた簡明な表示式を導いた。またGraham教授と共同で、Q曲率の積分の共形構造の変形に関する一次変分がFefferman-Graham障害テンソルと一致することを示した。これらの結果はCR Q曲率についても翻訳可能であり、CR幾何のアンビエント計量を用いたCR Q曲率の表示が得られる。また、CR幾何に対応する放物型不変式論を用いることにより、2次元の場合、ψとCR Q曲率が一致することの簡明な証明を得ることができた。この議論は高次元の場合には成り立たないが、CR Q曲率を同様な不変性をもつ擬共形不変量を構成する(ψはその一つの例)アルゴリズムを与えている;このアルゴリズムと不変式論を組み合わせることによりψの具体的な計算が可能になると期待できる。
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