研究概要 |
リーマン多様体,より一般にリーマン多面体やサブリーマン多様体を特別なものとして含む,保存的正則ディリクレ空間の族のスペクトル収束とその極限の解析を昨年度に続き行った.特に距離グラフの収束をエネルギー形式の視点から考察した. (1)内在的距離に関して完備な正則ディリクレ空間の開集合部分のディリクレ形式に関する核関数,グリーン関数,調和関数,さらに非正曲率多様体への調和写像などのアプリオリ評価を与え,連続性を示した. (2)保存的正則ディリクレ空間の族のスペクトル収束列の収束開集合列を考察し,核関数,グリーン関数,調和関数,調和写像などの収束を示した.これは,楕円型ハルナック不等式の成立しない状況においても,エネルギー最小解の列のエネルギーの集中によるある種の不連続性が極限空間の特異性に吸収されるという新たな知見を与えたことになる. (3)距離グラフの測地距離あるいはレジスタンス距離に関するグロモフーハウスドルフ収束とエネルギー形式のガンマ収束について新たな知見を得た.すなわち対象をコンパクトなものに限る場合,レジスタンス距離に関するグロモフ-ハウスドルフ収束極限は木上氏によって導入されたレジスタンス空間であり,エネルギー形式のガンマ収束を意味する.離散的なネットワークは,距離グラフの部分空間と考えられ,ネットワークの族の収束を含む理論である.この場合,スペクトル収束は測度の収束と対応することが明らかとなった.フラクタル集合上での確率過程の構成との関係以外にも,ディリクレ空間の理論におけるフェラー測度,マルコフ過程の時間変換の理論,加法的汎関数の理論,あるいはコンパクトではないネットワークの大域的性質の研究への応用の可能性も示唆している.実際ロイデンあるいはマルチンのコンパクト化の理論との結びつきが今後の研究課題である.
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