研究概要 |
今年度はパンルヴェ型力学系の数理に関して以下のような実績を挙げた. 1.2階のパンルヴェ型力学系の頂点に位置する楕円パンルヴェ方程式の定式化と特殊解の構成.楕円パンルヴェ方程式は1998年に坂井によって理論的に構成され,実際に方程式として定式化することが困難であるとされていたが,上手な座標系を取ってE_8^<(1)>型アフィンワイル群の双有理表現を構成することで,方程式を具体的に書き下すことに成功した.また,その定式化を用いて,特殊解として現れる超幾何函数がFrenke1-Turaevによって提案された楕円超幾何函数_10E_9であることを示した.また,楕円パンルヴェ方程式を初等的な代数幾何学を用いて2次元射影空間上の3次曲線の動くペンシル上の加法定理として定式化し,不変因子を用いて超幾何解を特徴付けることに成功し,超幾何解を初等的に導くことにも成功した. 2.あるクラスのq-Painleve方程式の階層構造の定式化.変換群としてA型のアフィンワイル群対称性を許容するパンルヴェ微分方程式はソリトン方程式の階層であるKP階層からsimilarity reductionで得られることが知られている.本研究では対称性としてA_1^<(1)>×A_<n-1>^<(1)>型アフィンワイル群を許容するq-Painleve方程式の階層を考察し,それがKP階層のq-analogであるq-KP階層のsimilarity reductionとして得られることを示した.またその応用として有理解の系列を研究し,それらがq-Schur函数の特殊化として得られることを示した. 3.q-PainleveIII方程式の詳細な研究. q-PainleveIII方程式はA_1^<(1)>×A_1^<(1)>型アフィンワイル群を許容するq-差分方程式であるが,その対称性,特殊解(超幾何型の特殊函数解,有理解)を詳細に考察した.特に,ワイル群の基本領域の重心にいるタイプの有理解と,鏡映面上にいる特殊函数解に関して完全な行列式表示を与えた. 4.パンルヴェ第6方程式の代数幾何学的定式化とRiemann-HilbertによるBacklund変換の特徴づけ.パンルヴェ第6方程式はBacklund変換のなす対称性としてD_4^<(1)>型アフィンワイル群を許容するとされているが,予期せぬ大きな対称性が見えることが最近報告されている.本研究ではBacklund変換の基本的な特徴づけを与えるためにモノドロミミー表現を考察し,Backlund変換がモノドロミー表現のモジュライ上の単純な変換のRiemann-Hilbert対応によるプルバックであることを示した.
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