研究概要 |
本年度は以下の研究成果を挙げることができた. (1)パンルヴェ型力学系の中で特にq-パンルヴェ方程式の系列を取り扱い,複素射影平面上の動く3次曲線のpencil上の加法として定式化した.その応用として全てのq-パンルヴェ方程式について,もっとも簡単な超幾何解(超越古典解)を具体的に構成することに成功した.それによって,楕円超幾何級数_<10>E_<9,> very-well-poised balanced q-超幾何級数_<10>W_9に始まり,ガウスの超幾何関数_2F_1からエアリ関数に至る,2階の微分・差分方程式で記述される超幾何型特殊関数の退化図式が明らかになった. (2)パンルヴェ型力学系を点配置空間とそこに作用するクレモナ変換の作る力学系として一般的に定式化し,代数構造理論を展開した.その一環として得られた,パンルヴェ型力学系に対する3次曲線の幾何を用いた定式化をパンルヴェ微分方程式に応用し,パンルヴェ微分方程式のハミルトニアンを3次曲線のpencilから簡単に得る手続きを考案し,同時にハミルトニアンの新しい代数幾何学的意味づけを与えた. (3)パンルヴェ第2微分方程式の一般的な解に関する行列式表示を構成し,その行列式要素の母関数を考察した.その結果,母関数はパンルヴェ第2方程式の補助線形問題の解の比になっていること,母関数における形式的展開パラメータが補助線形問題の独立変数に他ならないことがわかった.この謎めいた対応関係の理由はまだ解明されていないが,パンルヴェ第4方程式の有理解に関する行列式表示とその要素の母関数を考察した結果,母関数はエアリ関数の対数微分で記述されることがわかった.この事実は,上の対応関係が他のパンルヴェ方程式にも共通する構造であることを強く示唆する. (4)パンルヴェ第6方程式のベックルント変換をリーマン・ヒルベルト対応を用いて定式化し,ベックルント変換がモノドロミー表現のモジュライ上のきわめて単純な変換のリーマン・ヒルベルト対応によるプルバックであることを示した.
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