研究概要 |
原子核の熱力学的性質に関して,理論的立場から次のような研究を行った。 ・pf殻領域の陽子過剰核の準位密度について,特にisospinの効果に注目しながら,殻模型に基づく微視的立場から理論的に研究した。特にZ=Nの奇々核では,対相関のため異なるisospinを持つ状態が低エネルギー領域に共存するので,isospinによるエネルギー差の取扱いが重要になる。厳密なisospin射影法の開発によってそのエネルギー差の補正が可能になり,陽子過剰核についても信頼性の高い計算が実行できることを示した。 ・希土類領域の核準位密度を精度よく計算するため,殻模型モンテカルロ計算の数値計算プログラムを,バレンス陽子と中性子が異なるmajor shellにある場合をも扱えるよう拡張・開発し,テスト計算を行った。また,希土類核のようによく変形した原子核では,多数の回転バンドの存在のため基底状態エネルギーの評価に工夫が必要である。変形核における基底状態エネルギーの外挿法について,実験データも併せ用いながら検討した。 ・原子核の対相関の温度変化とそれに伴う相転移について,特に粒子数保存の影響を調べるため,粒子数射影を行った有限温度BCS理論の定式化を進め,数値計算アルゴリズムの検討を行った。さらに,変分後に粒子数射影を行う場合について幾つかの計算を実行し,低温で粒子数保存の効果が無視できないことを確認した。 ・不安定核領域における原子核の殻構造について,有効相互作用との関連に留意しながら研究を行った。今後,不安定核における殻構造の変化が熱力学的性質にどのような影響を持つかを調べる研究につながるであろう。
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