本研究は2007年度に開始するLHC実験において、超対称性についてどのような成果を出しうるかを明らかにすることを目的としている。今年度行った研究の主な内容は次の通りである。 1.シミュレーション環境の整備 小規模なPCファームとディスクアレイ装置を導入し、LHCアトラス実験における超対称性事象の簡易ミュレーションとデータ解析を行える計算機環境を整えた。 2.第3世代のスカラークォークの研究 LHCで生成されるグルイーノ→スカラートップクォーク/スカラーボトムクォークについて、アトラス測定器のシミュレーションとデータ解析を行い、トップとボトムの不変質量分布から、第3世代のスカラークォークの質量や崩壊分岐比に関する知見が得られることを示した。イベント生成プログラムやジェット再構築プログラムの影響や、トップクォークの編曲の測定など、詳細な研究を行い、報告した。 3.Nonpointing光子を用いたGMSB事象の研究 超対称性のGMSB(gauge mediation symmetry breaking)模型では、最も軽い超対称性粒子はグラビティーノである。次に軽い超対称性粒子がニュートラリーノである場合、この粒子は陽子陽子衝突点で生成後しばらく測定器内を飛んでから光子とグラビティーノに崩壊する可能性がある。このような事象の特徴は衝突点を向かない(nonpointing)光子である。このような光子の運動量と測定器への到達時間を精密測定することで、直接測定できないニュートラリーノの運動量の向きを決定できることをはじめて示した。また、スカラーレプトン→ニュートラリーノー→グラビティーノの崩壊過程に各粒子の質量と4元運動量のあいだの関係を用いることで、スカラーレプトンとニュートラリーノの質量やニュートラリーノの崩壊寿命を決定できることを示した。
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