研究概要 |
本研究の目的は,気球搭載測定器を用いて大気上部での宇宙線反陽子のエネルギースペクトルを測定し,原始ブラックホールのホーキング輻射で生成される反陽子を探索することである。このためにはホーキング輻射に特徴的な1GeV以下の低エネルギー反陽子を検出することのできる測定器の製作と統計精度向上のための長時間飛行が可能な南極周回気球観測を成功させることが鍵である。 本研究では,気球観測用BESS-Polar測定器に搭載する飛行時間測定器(TOF),middle-TOF検出器,信号処理エレクトロニクスの製作を行った。TOF測定器は反陽子と電子などの軽い粒子を識別するために用いられ,その時間分解能が識別可能エネルギー領域を決定する。middle-TOFは飛跡検出器とクライオスタットの隙間に新たに設置された検出器で,超伝導コイルを通過しないような低いエネルギーの反陽子をトリガーするために用いられる。 これらの検出器を搭載したBESS-Polar測定器を平成16年度12月に南極のマクマード基地から打ち上げ,8.5日の長時間気球観測を行った。このデータを基に陽子と反陽子とエネルギースペクトルを測定した。0.1GeVから1.28GeVの範囲で432例の反陽子を観測したが,これまでのBESS実験の1回の気球観測で得られた反陽子の4倍に達する。またこれまで検出できなかった0.2GeV以下の低エネルギー反陽子の観測に初めて成功した。エネルギースペクトルは2次起源反陽子モデルを合っておりホーキング輻射の兆候は観測されなかった。
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