GaAs(11nm)/AlGaAs量子井戸の界面揺動によって作られたアイランド構造をGaAs量子ドットとして使用し、フォトンエコー法を用いて、この系の励起子位相緩和過程および励起子系のラビ振動の可能性を調べた。その結果、励起子系の位相は減衰時間〜1nsで非常にゆっくりと減衰していることが判明した。通常の量子井戸の励起子の位相緩和時間は1ps程度であるのでそれから比べると量子ドット内の励起子の位相緩和は極端に長いことが分かった。この滅衰時間から単一量子ドット中の励起子準位のスペクトル幅は〜1μeVと見積れ、非常に狭いことが判明した。同様な結果はGaAs(9nm)/AlGaAs量子井戸中のアイランド構造に捕まった励起子に対しても得られた。 励起光の強度を変化させるとフォトンエコーの信号強度が大きく変化することも見出した。励起強度の増加に伴いエコー強度は振動的に大きくなったり、小さくなったりしている。この振る舞いはレーザー光との相互作用により量子系の2つの準位間を励起が行ったり来たりする現象であるラビ振動を考えると理解できる。したがって、この結果は結晶の基底状態と励起子状態の2つの準位間のラビ振動である励起子ラビ振動を観測していると考えられる。通常、位相緩和時間が非常に短いため、固体中でラビ振動を観測するのは難しいが、励起子の位相緩和時間が〜1nsと極端に長い我々の量子ドット中では比較的弱い励起強度でもラビ振動が観測できている。更に、このラビ振動が励起子・励起子相互作用を反映して、強度とともに振幅が大きくなり、周期の長くなる振動であることも判明した。 ラビ振動は量子コンピューティングの基本操作であるqビットの回転を行うための必須の現象であるので、本研究の結果は量子ドットが量子コンピューティングの論理回路構成材料として有望であることを示すデータとなっている。
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