研究概要 |
有機ラジカル1,3,5-trithia-2,4,6-triazapentalenyl(以下TTTA)結晶は、室温を挟む広い温度領域にわたって磁気双安定領域を持つ一次の常磁性-反磁性磁気相転移が見出されて以来、新規の強相関物質・光誘起相転移を示す物質として注目されている。特に、分子がわずか3つの構成元素(炭素・窒素・硫黄)、8個の原子から成ること、磁性や電子構造の根源は分子の持つ不対電子自身であることから、最もシンプルな構造の強相関物質と見なすこともできる。本研究では、この物質を最もシンプルな新規強相関物質の1つとして捉え、TTTA結晶の高温相(常磁性相)・低温相(反磁性相)の電子状態、磁気特性を実験的・理論的に明らかにすること、光誘起磁気相転移の非線形光学応答性を調べることを目的とした。 顕微ラマン、赤外吸収実験から、1ショットのレーザ光照射により閾値を持って非線形的に低温相から高温相へ光誘起磁気相転移が生じることをはじめて見出した。これは、光励起により低温相中に作られた高温相のドメインがある大きさ以上になったとき、はじめてドミノ倒しのように一気に自律的・自己組織的に相転移が進行するものとして理解できる。また、透明領域のレーザ光照射により(2光子励起)、表面だけでなく結晶の内部も効率的に磁気相転移すること、相転移の変換効率が1光子励起に比べて急峻になり非線形性が増大することを見出した。理論計算においては、電子相関を経験的に取り入れた第一原理計算を行い、常磁性相がこれまで知られている物質のうち最も単純なモット絶縁体であること、磁気秩序は反強磁性的であることなどを見出した。この他、光誘起相転移の動的過程の研究に有用な「フェムト秒ポンプ・プローブ実時間イメージング分光法」を開発した。
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