研究概要 |
本研究は、ラマン散乱分光法とフェムト秒時間分解分光法を用いて、擬1次元誘起結晶における光誘起構造相転移の微視的機構を解明する事を最終目的とした。主な対象は、電荷移動有機錯体結晶tetrathiafulvalen-p-chloranil (TTF-CA)、ポリジアセチレン結晶5,7-dodecadiyne-1,12-diol bis[phenylcarbamate] (TCDU)単結晶、および1,6-di(N-Carbazolyl)-2,4-Hexaduyne (以下DCH)のナノ単結晶である。得られた成果の概要を以下に記す。 1)TTF-CAにおける光誘起相転移効率の励起波長依存性の起源に関する微視的解明 フェムト秒時間分解反射分光法を用いて、赤外領域の電荷移動遷移を波長可変的に励起し、イオン性相から中性相への相転移発生効率と相転移動力学の励起波長依存性の研究を行った。その結果、電荷移動遷移領域における光子エネルギーの増加に伴って増大する相転移効率は、励起直後1ps以内に形成される前駆体としての1次元励起子ストリングスのサイズの光子エネルギー依存性に起因するものであることが判明した。 2)TCDU結晶の光誘起重合過程における1次元鎖形成過程の機構の解明 光誘起重合は、3重項励起子凝縮による2量体ジラジカルの生成がトリガーとなって発生する。ラマン散乱分光法を用い、2量体ジラジカル生成後の重合相形成過程におけるC骨格の結合様式変化を追跡した。その結果、A相およびB相への選択的重合過程は、ジカルベン状態で分岐する事が明らかとなった。この分岐は、モノマー結晶の分子配列と密接に関係している。 3)ポリジアセチレン結晶およびナノ結晶(DCH)における励起子緩和過程の研究 A、B相のポリジアセチレンおよびDCHナノ結晶(結晶サイズ100nm)のフェムト秒分光による研究の結果、数ピコ秒の励起子の消滅後、35ps後に固有な緩和励起状態が生成する。その寿命は、ナノ結晶においては、A、B相単結晶における類似の中間状態の寿命よりもはるかに短い。
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