本研究では、銅酸化物高温超伝導体の興味深い問題の1つである磁場誘起反強磁性秩序の起源を明らかにするため、その典型物質であるLa_<2-X>Sr_XCuO_4(La214)とBi_2Sr_2CaCu_2O_<8+δ>(Bi2212)の磁束線格子を走査トンネル顕微鏡(STM)により観測し、磁束内における電子のエネルギースペクトルをSTMトンネル分光(STS)により詳細に調べる。今年度は、STMによる磁束の観測のために、極低温STM/STSの装置に超伝導マグネットを取付け、磁場中でSTM/STS実験ができるように装置を整備した。これにより、8Tまでの磁場中でSTM/STS実験が実際に行うことができるようになった。また、STS実験の効率化を図るために、制御装置の更新を行った。その結果、試料表面の異なる位置でトンネルスペクトルを連続的に測定することが可能となり、Bi2212の超伝導ギャップを数100Åの直線上で観測することに成功した。さらに今年度は、本研究の動機となったスイスPSI研究所との共同によるLa214の中性子実験を継続して行い、磁場中における磁気励起スペクトルも詳しく調べた。これまで、La214の低キャリア(ホール)濃度領域では、磁場により超伝導を抑制すると反強磁性様の秩序が誘起され、超伝導と共存することが報告されていた。この磁場誘起反強磁性秩序は、T_c付近で超伝導と共に消失するものであり、超伝導の発現と密接に関係する現象として注目されている。しかし、本研究では、同じ低ホール濃度の試料でも磁場誘起反強磁性秩序を示さない試料もあることが明らかとなり、超伝導と共存する磁場誘起反強磁性秩序にはホール濃度の他にも重要なパラメータがあることを指摘した。来年度は、磁場誘起反強磁性秩序を示す試料と示さない試料で磁場中STM/STS実験を行い、磁場誘起反強磁性秩序の起源について詳しく調べる。
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