本研究の目的は、並進対称性の破れた人工的空間構造の中で、スピン密度波(SDW)状態が示す新物性を開拓することである。1年目の本年度は低次元有機導体人工構造形成のために必要な設備の導入・整備を行うとともに、人工構造形成技術の基礎的な開発研究を行った。 まず有機導体のメゾスコピック構造を作製するための微細加工装置として、ECR(電子サイクロトロン共鳴)イオンシャワー装置を導入した。これは酸素プラズマを用いて有機導体を灰化してドライエッチングを行うために使用する。その他アルゴンイオンプラズマを用いた物理的スパッタリングで有機導体を含む材料の加工も可能である。周辺設備の整備と条件出しを行った。 有機導体ヘテロ接合構造の形成するために、TMTSF系擬1次元有機導体の「電解再成長(Electro-chemical Overgrowth)」法技術の開発を行った。この手法は通常有機導体の結晶成長に用いられる電解法において、白金製の陽極電極の代りに種結晶(TMTSF)_2X単結晶自体を用い、その上に(TMTSF)_2X'単結晶を「接木」的に再成長するものである。(TMTSF)_2PF_6/(TIMTSF)_2ClO_4接合の作製を試み、局所的な電気伝導測定から、マクロにはバルク単結晶の接合が形成されていることを確認した。 電界効果トランジスタ(FET)構造の研究に先立ち、バルクのα-(BEDT-TTF)_2KHg(SCN)_4単結晶の積層方向に低温で強電場を印加し、層間磁気抵抗の磁場方位依存性を測定したところ、擬1次元電子構造を反映したLebed共鳴が、電場効果で2重に分裂する現象を発見し、「有効磁場」の概念を用いて説明した。またこの現象が擬1次元導体のFermi速度決定に利用できることを指摘した。
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