今年度は、ZYX exfoliated graphite(以下、ZYX)を吸着基盤とするNMR試料セルを核断熱消磁冷凍機に搭載し、核常磁性のサブモノレーヤー固体^3He試料を使って、冷却性能とcw-NMR測定系のテスト実験を行った。その結果、ZYX上の2次元^3He試料を少なくとも200μKまで冷却できることを確認した。これより低温では発熱の問題が認められたが、発熱量の測定周波数依存性を調べることでH_1コイルのジュール熱が原因であることが判明したので、コイルを高電気伝導度の純銀線で巻くことで対処することにした。 一方、高密度の^4He単原子層の上に吸着した^3He単原子層試料の熱容量を広い密度および温度範囲(100μK【less than or equal】T【less than or equal】80mK)で測定した。その結果、4/7整合相の密度(6.86nm^<-2>)に近づくと、スピン自由度に起因する緩やかな低温の熱容量ピーク(T【approximately equal】1mK)とホールの運動と密接な関係があると思われる緩やかな高温のピーク(T【approximately equal】30mK)の二つが共存する密度域があることが分かった。しかも、その振る舞いは流体相と4/7整合相の相分離(2相共存)としては説明ができない。我々は、この領域をモット局在相(4/7整合相)にホール(零点空格子)がドープされた異常流体相と考え、銅酸化物高温超伝導物質の異常金属相と密接な関係があることを提案した。 熱容量測定による上記の発見をうけて、異常流体相における帯磁率の振る舞いを予備的に測定したところ、熱容量の二つの緩やかなピークに対応して帯磁率の温度依存性が2段階のプラトー構造をもつらしいことが分かってきた。来年度はより詳細な帯磁率測定を行うと共に、異常流体相前後の密度域でBCS転移の探索を行う予定である。
|