グラファイト表面を^4Heで単原子層プレコートした上に物理吸着した単原子層^3Heの比熱と帯磁率を広い面密度および温度範囲で測定し、2次元面フェルミオン系の強相関効果を調べた。その結果、面密度によってこれまで知られていなかった新奇な量子流体相を含む4つの異なる状態が実現し、この系が多彩な量子相図をもつことが判明した。 低密度域(領域I)では準粒子有効質量が裸の質量の10倍程度まで増強し、低温の性質はフェルミ流体論でよく記述できる。しかし、下地に整合な4/7相の密度(6.9nm^<-2>)が近づくと比熱や帯磁率の振る舞いはフェルミ流体論から逸脱し、スピンと運動の自由度が分離したかのような新奇な量子状態が出現することが分かった(領域II)。領域IからIIへの移り変わりは連続的で対称性の変化はない。本研究では、この領域IIを4/7相(モット相)に零点空格子点(ホール)がドープされた新しい量子流体相と捉える独創的な提案をした。面密度をさらに増すと比熱も帯磁率も大きな密度変化を見せない領域(III)がしばらく続き、8.3nm^<-2>以上で強磁性相との2相共存領域(IV)が現れる。領域IIIもIIとは性質の異なる新たな量子相である可能性が高い。その流動性が上層にpromoteした流体相からの寄与なのか過剰粒子がドープされた4/7相の性質なのかを解明することは今後の重要課題である。 4/7相の磁気基底状態についてギャップレス量子スピン液体という我々のかねてよりの主張を裏付ける結果が得られただけでなく、以上の全ての密度領域において0.07mKまでの低温でスピンギャップの存在を示すような比熱や帯磁率の減少は観測されなかった。これは、最近の3角格子上ハバードモデルによる経路積分繰り込み群の計算の結果と一致しており、フラストレーションのある強相関フェルミオン系の一般的性質と考えられる。
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