研究概要 |
量子ゆらぎの効果が支配的となる極低温のボルテックス液体相,すなわち量子液体(QVL)相におけるボルテックスダイナミクスは,理論的にも実験的にもまったくわかっていない。本年度は,前年度にその手がかりをつかんだ,熱的液体相からQVL相への移り変わりに伴うボルテックスダイナミクスの変化を,系の次元性をパラメタとして明らかにすることを目指した。このため厚い膜と薄い膜の両方について,液体相におけるボルテックスフロー電圧の時間依存性[時系列V(t)]測定と、電圧ノイズスペクトラム測定を行った。 厚い3次元膜では,温度を低下させ極低温域のQVL相に入るとほぼ同時に,ボルテックスフローによる(平均電圧のまわりの)電圧ゆらぎδV(t)が観測された。その分布はボルテックスの進行方向に向かって長い裾野をもつ異常な非対称性が現れることがわかった。これは,QVL相ではボルテックスの速度あるいは数が時間tの関数として断続的に増大することを示している。またここでは,大きなブロードバンドノイズが発生した。 2次元系は,強い量子ゆらぎのため,平衡状態のボルテックス相図は3次元系とは大きく異なる。一方2次元系では,3次元系で見られるような熱的液体相からQVL相への移り変わりを示唆する抵抗率の温度依存性の折れ曲がりは観測されていない。ところが,電圧ゆらぎδV(t)測定を行うと,3次元系の場合とほぼ同じ極低温域で,3次元系で観測されたものと類似の異常な渦糸ダイナミクスが出現した。これらの実験結果は,量子ゆらぎが効く極低温域の渦糸ダイナミクスが,次元性によらない普遍的なメカニズムに支配されていることを示している。
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