有機伝導体はその低次元性および強い電子相関が絡まって様々な相転移を示し、固体物理研究の重要な領域となっているが、微少試料しか生成できないため相転移における熱的な研究が大きく遅れていた。従来の測定法である緩和法を用いて微少な試料の測定は可能であるが、その精度は0.3%程度であり、相転移における細かな構造を明らかにするためには、さらに10倍以上の感度上昇が望まれていた。本研究でわれわれはDTA(示差熱分析法)を用いて0.2mgの試料において0.03%以上の相対精度を持つの測定システムを完成させた。またこのシステムは300Kまでの広範囲温度領域の測定、温度掃印速度を可変であるためガラス転移など評価が可能、同時に3つまでの試料を測定可能なため比熱の細かな比較検討が可能であるなどの長所を持ち合わせており、これを用いて次の研究を行った。 1)DCNQI-Cu系の金属-絶縁体-金属転移の起源を明らかにするため、重水素置換を行いCH2D、CHD2を有する系、シアノ基を同位体化して起こる転移についても併せて比熱および潜熱を測定して熱力学的に調べた。その結果、すべての系でCu2+のスピンと自由電子、格子の自由度の競合で転移が起こることが明らかとなった。 2)選択的重水素置換DCNQI-Cu系でみられるメチル基の回転に伴う異常比熱の起源を出現条件を明らかにするために測定掃印速度を変えながら測定した。その結果CHD_2はCH_2Dに比べ基底状態に戻る時間が長く、短時間の測定では重水素を置換しない系の比熱と一致することが明らかとなった。 3)θ-(BEDT-TTF)_2RbZn(SCN)_4およびα-(BEDT-TTF)_2I_3系の電荷整列の形成とその運動の研究に着手した。 4)ビフェロセンFnTCNQ系錯体は1価イオン性固体-2価イオン性固体間の電荷移動型相転移のエントロピー評価を行い、転移の機構を探った。
|