DCNQI-Cu系などのπ-d有機伝導体は低次元性と強相関を併せ持ち電子系、スピン系、格子系等の様々な励起があるため、色々な相が競合する大変興味深い分野である。これらの系で観測される相転移の熱力学的な研究は試料が1mgも達しないため発展が遅れていた。本研究では微小試料測定に適した新たな熱測定システムを構築し高精度測定を基にこの相転移の熱力学的な研究を遂行させることが目的である。本年度は250Kの高温領域まで測定可能なシステムに構築において、大きな障害となる熱輻射を遮蔽するため試料ホルダを製作し、高精度化されたシステムを完成させた。このシステムを用いて、下記の研究を行った。 1)Pd-dmit系が見せるスピン系のフラストレーションと電荷秩序の競合の問題:カチオン中の金属原子が異なる塩でもフォノン系がほとんど共通であること、格子系が変形をはじめる初段階と電荷が移動する最終段階の2段階の過程から構成されることを明らかにした。 2)1価イオン性固体から2価イオン性固体への相転移:TCNQに付いたフッ素を水素に置換すると相転移領域が単調に減衰するが、格子の変形は或る濃度域で急激に消滅することが分かった。 3)DCNQI-Cu系の重水素の自由度に起因した比熱の異常の研究:DTA法の利点を生かして、温度掃印速度に対し、異常比熱と金属-絶縁体転移がどのような依存性を持つのか調べた。 4)電子相関が関与したαおよびθ型BEDT-TTF塩が引き起こす電荷秩序の新しい相転移の研究:転移におけるエントロピーおよび比熱の変化を調べ、電荷秩序形成に伴う格子系の硬化をはじめて観測した。この現象は電荷秩序の転移温度を大きくかえるものと考えられる。またDTA法を用いた1Kまでの低温比熱を2%程度で測定可能なシステムを構築した。これらの相転移を解明するうえで重要となる圧力下での熱測定を行うことができるシステムの構築も今年から本格化した。クライオスタットを製作し試運転をはじめた。
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