電荷移動錯体を中心とする、有機伝導体はその低次元性と強い電子相関から、電荷秩序、Mott転移、電荷密度波、超伝導、反強磁性スピンパイエルス転移などの相転移が狭い温度、圧力、磁場範囲で競合する特異な物質群であり、その結晶性の良さから多くの研究者の研究対象となってきた。また有機結晶特有の格子系の柔軟さより、相転移近傍での比熱がきわめて大きく、相対感度の高い比熱測定システムの誕生が待ち望まれてきた。我々はDTA法を用いた熱測定システムの開発をおこない、今まで測定の出来なかった温度上昇時および下降時の比熱測定と、0.1mg程度の微少試料を用いた格子比熱の大きな高温領域における相転移の研究が相対精度0.1%以内で可能となった。このシステムを用いて次のことを行った。 ●特徴的な電荷秩序の相転移をみせるκ-ET_2RbZn(SCN)_4系では試料温度掃印速度を変化させながら一次相転移を探り、加速により相転移を抑制しながら熱測定が可能となった。 ●Et_2Me_2Sb[Pd(dmit)_2]_2系のスピン・フラストレーションと構造変態を伴った相転移時に200-300J/molにも及ぶ大きな比熱異常を観測した。また相転移より高温部に小さいながらも前駆現象による比熱の小さなピークを発見し、x線を用いて前駆現象の機構を明らかにした。 ●κ-BETS_2FeBr_4系の反強磁性と超伝導の共存がどのようになされているのかエントロピーを定量的に吟味し、超伝導形成にともないスピン系間の相互作用の次元性が変化する結果を得た。 ●比熱測定用新型の超小型圧力セルを製作し、10mg程度で相転移に伴う比熱異常が測定可能なシステムを開発し、Pd(dmit)_2系の相転移を測定した。この圧力セルの圧力媒体をオイルから試料とほぼ同じ弾性率を有するスタイキャストに代え、一軸性圧力により相転移を制御しながら熱測定が可能となった。
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