キラルな磁気構造を持つ透明な分子磁性体では、光学活性と磁気光学効果が協奏的に働く結果、磁気不斉二色性と呼ばれる新しい磁気光学効果を示すと期待されている。磁気不斉二色性は、光学活性の大きさ、不斉な磁気双極子場の大きさとサンプルの磁化の大きさに依存する。キラルな強磁性体やフェリ磁性体ではこの磁気不斉二色性常磁性体に比べて非常に大きくなると予想される。本研究計画では、今までの方法によるキラル磁性体の構築をさらに発展させ、構成スピンを異方的にすることによる不斉な磁気双極子場の大きな新しいキラル磁性体の構築検討および転移温度100Kを越えるような高温キラル分子磁性体の構築検討を行うことを目的として研究を進めた。昨年度に引き続き不斉な磁気双極子場(スピンのヘリシティ)の大きな新しいキラル磁性体の構築を行う。磁気構造のヘリシティは、主に電気双極子の偏りとスピンの零磁場分裂定数Dによる。電気双極子の偏りは、分子そのものと構造から来る電気双極子の大きさおよび構造に由来し、構造の要因はらせんにスピンを配列した場合、らせんピッチが小さく、らせん半径が大きいほど大きくなると考えられる。このことは前年度、物性理論を用いて証明に成功した。その結果ではスピンの零磁場分裂定数Dを大きくするためには、スピンー軌道相互作用の大きな磁性イオンを用いること、配位子場の大きな配位子を用いることが一つのアプローチである。具体的には、構造に関しては、キラル有機配位子の構造を変えることによって、らせんピッチが小さく、らせん半径が大きい三次元キラル磁性体の構築を試みる。より立体的に大きなフェニルアラニン誘導体(フェニルアラナミドなど)を用いることによって可能であると考えられる。これらの配位子の場合、分子内にカルボニル基を有するため電気双極子が大きく、より大きな電気双極子の偏りを持つ可能性もある。遷移金属イオンは、よりスピンー軌道相互作用が大きな、Mo(V)等を用いて構築を行った結果、2種類の新規モリブデンークロムキラル磁性体の構築に成功した。それらの錯体のX線結晶構造解析の結果、一次元錯体および二次元錯体であることが明らかとなった。磁気測定の結果では一次元錯体が転移温度9Kの強磁性体、二次元磁性体では転移温度40Kの強磁性体であることが明らかとなった。それらの錯体は共にモリブデンの大きな異方性を反映して今までのマンガンークロムキラル磁性体に比べて、大きな異方性を持つことが明らかとなった。これらの錯体の磁気光学効果等に関しては、現在研究を進めている。また大きな異方性を持つコバルトを含む新規キラル磁性体の関しても合成に成功した。この錯体は非常に大きな保持力を有し、詳細な磁気測定を行った。この研究に関しては、論文として現在投稿している。
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