研究概要 |
結晶構造がキラル空間群に属する今までにない新しいタイプの磁性体の合成を二種類の遷移金属イオンをシアノ架橋したプルシアンブルー骨格に、キラル有機分子を導入することによる不斉誘起を行うことによって10種類以上の新規キラル磁性体の構築に成功した。マンガン二価イオン、クロム三価イオンおよび13-(RまたはS)-ジアミノプロパンを用いた系では二次元フェリ磁性体、三次元フェリ磁性体の構築に成功した。二次元フェリ磁性体では、摂氏30度程度に加熱することにより、可逆構造相転移を単結晶でおこし(二次元フェリ磁性体相2)、さらに脱水することにより可逆構造相転移を単結晶でおこし三次元フェリ磁性体を得ることにも成功した。また遷移金属の組み合わせは同じで、キラル有機配位子にアミノアラニンを用いた場合も三次元キラルフェリ磁性体の構築に成功した。最も重要な特長であるカイラル磁気構造の解明研究を化学(新規化合物合成)と物理(磁気構造解析)の観点から進めた。結晶構造解析からこのカイラル磁性体がカイラル空間群であることが証明され(4,6,7)、中性子線回折により、この結晶の転移温度以下の磁気空間群がやはりカイラル磁気空間群に属することが証明された(5)。また結晶空間群の点群および磁気空間群から、ジアロシンスキーモリヤベクトルが群論的に唯一許される方向が容易軸となっており、さらにこの軸はらせん軸と平行であり、磁気空間群から唯一許される磁気らせん軸とも一致する。また静磁化率測定、中間子測定の結果(9)も、これらの結果と完全に一致している。また、らせんの形状については、中性子線回折測定でサテライト反射が見られないことから、長大なピッチのらせんであることがわかった。また中間子測定を単結晶に対して行うことにより、このカイラル磁性体の内部磁化、磁気構造等の詳細な磁気データを得た。
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