研究概要 |
本研究では「生体高分子の構造形成とその記憶・タンパク質の折り畳み」の解明を最終的な目標として,「ヘテロ高分子ゲルにおける分子内フラストレーションの解消と構造の記憶」を実験的に示すことにある.即ち,高分子を構成しているモノマー間の相互作用が引力・斥力を含めて種々ある,「ヘテロ高分子」では.モノマー間の引力によって高分子内架橋が生じ,それによって他の引き合うモノマーが対になることを妨げられる,いわゆるフラストレーションが生じる.モノマーの配列がランダムな場合,その取りうる如何なる構造においてもフラストレーションが100%解消されることはないために,相転移が起きても無数に縮退した局所的極小エネルギー構造のひとつへの相転移となり,構造を記憶することができない.タンパク質の場合には何らかの方法でフラストレーションが解消される配列と構造が選択されていると予想される.平成15年度および16年度の検討により,ヘテロ高分子ゲルの相転移およびその微視的構造の解析から,(1)モノマー対のランダムな形成による分子内フラストレーションの発生の証明,(2)分子内フラストレーションの解消法の確立,(3)分子内フラストレーションの発生およびその解消を可逆的に再現できることを示すことができた.具体的には,「生体高分子の構造形成・機能発現の原理」を「分子刷り込み法」という極めて単純な方法を用いて示そうとするところにある.即ち,「分子刷り込み法」では,高分子を構成するモノマーに重合前に対を作らせ安定化させ,系全体がエネルギーの低い空間配置をとったところで全部のモノマーを重合させるという特徴をもつ.すなわちこの方法では,エネルギーの安定な状態を,重合後の構造にする込り込みを行った.さらに,この方法では,重合前のモノマーのスープの中に低分子有機化合物を共存させることで,共存分子を含めた状態で安定化させ,重合を行うことにより,分子認識空問が形成されることが明らかになった. 本研究の成果は,タンパク質にみられる,選択的な分子認識,あるいは誘導適合(induced fit)などの機能解明のためのモデルとなる.すなわち,このコンセプトが実証されれば,生体高分子の有する構造形成と機能発現の原理の相関を解明に,つながるものと考えられ,その科学的意義は大きい.また,分子進化,さらには生命の起源への分子物理学的解明への糸口を与えると考えれる. また,これまで多くの生体模倣機能を有する分子が合成されてきたが,単なる機能の組み合わせにすぎなかった.しかしながら,本研究では,モノマー間相互作用とそれに伴う高分子の相形成を基本とするため,極めて一般的な方法論であるといえる.申請者らは高分子ゲルに初めて明確に「相」の概念を導入し,高分子ゲルの「相転移」と物性,高分子の構造形成に関する基礎的な研究に注力してきた.本研究課題はその発展として,分子進化,生命の起源等の問題も含め生命の分子物理学的理解に光を与えるものであると考えている.
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