研究概要 |
広帯域誘電分光(BDS)システムの構成サブシステムとして,精密インピーダンスアナライザー(アジレントテクノロジー)と差動TDRモジュールを組み込んだ。また,試料の±1/1000Kでの温度調整を目標にして設計・製作した電極,温度ジャケットを用いたセットアップによって,下に述べる相転移現象などの観測にBDSを適用した。 Poly(vinylpyrrolidone)[PVP]水溶液および各種アルコール溶液について,広い濃度・温度域での誘電分光測定を行った。観測された溶媒の緩和と,PVP分子鎖のミクロブラウン運動による緩和から各緩和パラメータを解析したところ,水素結合密度の増加によって分子鎖ダイナミクスの緩和時間が小さくなり,水素結合の生成消滅に関係する緩和の分子機構を有することがわかった。 ±3/1000K以下の温度調節を施した界面活性剤C_4E_1/水系の臨界現象の誘電分光では,臨界点付近で緩和時間分布の広がりが見られた。さらに予備的な測定から,同様なゆらぎが膜の液晶-ゲル相転移を有するリポソーム分散液についても見られる可能性があり,今後さらに精密な誘電分光システムの構築が望まれる。 溶媒組成による体積変化を示すpoly(acrylamide)[PAAm]/(水+有機溶媒)系ゲルについて,溶媒分子の緩和時間vs.緩和時間分布ダイアグラム(純溶媒でスケールした溶媒の緩和時間とCole-Cole型緩和関数の形状パラメータがダイアグラム上で示す軌跡によって系の動的構造を特徴付けるスケーリング・フラクタル次元を用いる本研究の解析法)は,PAAm分子鎖による溶媒の束縛によるスローダイナミクスと構造形成を特徴付けている。今後様々な凍結系における拘束についても同様な解析を行い,比較していく。 さらに多糖類,たんぱく質,皮膚,食品など,多様な水系に含まれる水のスローダイナミクスから,束縛された水や他の溶媒の多様な構造とダイナミクスに関する同様な解析を行ったところ,これらの物質群の親水・疎水性相互作用による構造形成を反映すると思われるパターンが得られるようになってきた。今後の展開が期待できるところである。
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