研究概要 |
本研究では、地球のコアーマントル境界付近で起きていると考えられる様々な現象の解明を目的として、100GPa(100万気圧)領域下におけるケイ酸塩や金属の相転移や反応、およびその粘弾性的性質を明らかにするための実験技術を開発し、その技術を駆使して様々な研究を展開した。本研究で新たに開発された実験技術としては、(1)ダイヤモンドアンビルの加圧軸と直角方向からX線を入射して回折パターンをとり、一軸応力場における物質の粘弾性的性質を明らかにするradial diffraction法、(2)収束イオンビームによる極微小試料の切断整形技術を、ダイヤモンドアンビル回収試料に応用するための技術、(3)アルゴンや窒素などの気体試料の中でケイ酸塩や金属を融解させ、これらの物質中への希ガスの融解度を測定したり、新物質を合成する技術、および(4)新型のマイクロマニピュレーターを利用しての極微小試料の精密なサンプリング法、の4つが挙げられる。これらの実験技術を用いて、コアーマントル境界に存在すると考えられるポストペロフスカイト相の塑性変形に伴う選択配向の様子を明らかにしたほか、下部マントル最下部条件下でのポストペロフスカイト相,ペロフスカイト相、およびマグネシオウスタイト相間の鉄の分配も明らかとなり、コア-マントル境界におけるケイ酸塩の挙動に関して新たな知見を得ることができた。さらに、コアに溶解している希ガス濃度を推測する実験的研究として、シリカへのアルゴンの溶解度を約10GPaまで測定し、従来類似の実験で測定され大きな問題となっていた6GPa付近の溶解度の急激な減少が、実験技術上の問題に起因する見かけ上のことであり、本質的にはそのような減少が起こらないことを明らかにした。またマイクロマニピュレーターの利用により、今後コアの内部における研究を可能にするマルチメガバール領域の実験技術も大きく進展した。
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