研究概要 |
・南半球のストームトラックの季節変動に関して,擾乱振幅の最大域が南インド洋の海洋前線帯に伴う海上の顕著な傾圧帯に年間を通じて固定されている事が判明した.そこでは,擾乱による極向き熱輸送が海上の傾圧性に敏感で,またそれに伴う西風運動量の輸送が,海面の偏西風を伴う深い構造の極前線ジェット(PFJ)を形成させ,ストームトラック・PFJ・海洋前線帯三者の共存系の存在が初めて示唆された.一方.南太平洋では,冬季に上強い亜熱帯ジェット(STJ)が形成されると上空の擾乱がその軸に捕捉されるが,STJに伴う地表付近の傾圧帯が弱いため擾乱の発達は抑制される.STJの弱い夏季には逆にストームトラックは顕著でPFJも強化されることが分かった. ・船舶観測データの詳細な解析から,他の中緯度海域とは異なり,北西太平洋亜寒帯前線帯では,独自の10年規模変動に伴う海面水温偏差が大気への熱放出偏差を制御することが初めて分かった.この海洋から大気への熱的強制がストームトラックの軸の緯度を系統的に変える傾向も判明した. ・我が国に冷夏をもたらす地表の寒冷なオホーツク海高気圧の形成が,その北西上空で発達するブロッキング高気圧に伴う下層の東風偏差が冷たいオホーツク海と西方の暖かい大陸との間の温度傾度を横切る際に生ずる寒気移流に因ることが初めて明らかにされた.尚,ブロッキングの形成は,北欧からシベリア北岸上空を伝播して来た定常ロスビー波束の局所的砕波に伴うことが分かった. ・晩冬から春季に掛けて,南半球PFJが成層圏極夜ジェットのほぼ真下に入るオーストラリア南方,南東太平洋などの領域では対流圏から成層圏下部に達する導波管が形成される.ブロッキングなど対流圏の強い循環偏差から射出された準定常ロスビー波束は,そうした局所的導波管を通って成層圏に達し,極夜ジェットにそって季節内変動をもたらすという新事実が明らかになった.
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