研究概要 |
・南半球では,移動性擾乱の振幅最大域が南インド洋の海洋前線帯に伴う海上の顕著な傾圧帯に年間を通じて固定される事が判明した.そこでは,擾乱による極向き熱輸送が海上の傾圧性に敏感で,それに伴う西風運動量の輸送が海上偏西風を伴う深い構造の極前線ジェット(PFJ)を形成し,ストームトラック・PFJ・海洋前線帯三者の共存系の存在が初めて示唆された.一方.南太平洋では,冬季に亜熱帯ジェット(STJ)が強まると上空の擾乱がその軸に捕捉されるが,地表傾圧帯が弱く擾乱の発達は抑制される.STJの弱い夏季には逆にストームトラックは顕著でPFJも強化されることが分かった.また,こうした新しい概念で,北大西洋と北太平洋の移動性擾乱活動の季節変化に見られる差異も統一的に説明できることがわかった。 ・南極のオゾンホールが2002年早春に突然分裂・崩壊した原因が,その数日前に南西大西洋で発達した強いブロッキング高気圧から上方伝播した定常ロスビー波であり,かつそのブロッキング形成にも南西太平洋で活発化した積雲対流により励起されたロスビー波が寄与したことも判明した。一方,冬季オーストラリア南方では,成層圏の極夜ジェット(PNJ)と対流圏PFJが重なり,鉛直に導波管が形成され,PNJを伝播してきた定常ロスビー波が下方伝播して対流圏に大規模な循環偏差を形成すると言う全く新しい型の対流圏・成層圏力学結合が見出された。 ・我が国に冷夏をもたらす地表の寒冷なオホーツク海高気圧の形成が,その北西上空で発達するブロッキング高気圧が下層に引き起こす東風偏差が移流する寒気の蓄積に因ることを初めて明らかにした.尚,ブロッキングの形成は,北欧からシベリア北岸上空を伝播して来た定常ロスビー波東の局所的砕波に伴うこと,初夏に現れるオホーツク海高気圧の形成には,ロスビー波東ではなく,移動性擾乱からのフィードバック強制が効くこともわかった.
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