研究概要 |
1.大洋東部における夏季の亜熱帯高気圧の発達が,冷たい海上とその東方の大陸との間の加熱差への力学応答に因ることを示し,モンスーンの遠隔影響との定説を覆した.また,この下層での応答に伴い,西半球の対流圏上層にプラネタリー波が励起されることも見出した. 2.日本付近の夏季の熱帯高気圧の勢力はフィリピン付近の対流活動の強弱に左右されることが知られており,それをもたらす循環偏差の3次元構造と形成力学は20年前に乏しいデータに基づき提唱されたままであったが,最新の豊富なデータを基に再評価したところ,従来提唱されてきたものとは本質的に異なる描像が得られた.即ち,アジアの夏季モンスーンに伴い発達する複雑な構造の季節平均循環場から運動エネルギーと有効位置エネルギーを効率良く変換できる構造を持つ力学モードで,対流偏差中心に吹き込む海上風偏差が水蒸気の蒸発を促進させる自己維持機構を備えたものという新しい作業仮説を得た. 3.2002年8月に欧州に豪雨と大洪水をもたらした上空の低気圧性寒冷渦の時間発展を調査し,寒冷渦が北大西洋の西風ジェットを伝播してきた停滞性ロスビー波束の先端部で起きた砕波に伴って形成されたことを見出した.また,この波束が数日前に北米東岸上空を通過した際に,熱帯低気圧の影響で再強制されたことも判明した. 4.黒潮続流域におけるラジオゾンデ観測のデータの解析に基づき,蛇行する海洋前線帯に伴う空間的な水温不均一に対応して,大気境界層内の静的安定度が変化し,それが乱渦による下向き運動量輸送量を変化させて海上風速が水温分布と明瞭に関連して分布することが確認された.
|