研究概要 |
成層圏突然昇温現象(SSW)発生期前後における成層圏-対流圏間の力学的上下結合のメカニズムとその予測可能性を解明することは,対流圏循環の中長期予報の精度向上にとって,極めて重要である. 今年度は,SSWと関連して発生する帯状風偏差の下方伝播の予測可能性と,その前駆現象を解明するため,気象庁一ヶ月アンサンブル予報データと客観解析データを用いて,2003年1月に生じた波数1型のSSWに引き続いて発生した帯状風偏差の成層圏から対流圏へ下方伝播について解析を行い,以下のような研究成果を得た. 1.SSWの発生をうまく再現している予測値の全てが,SSWに引き続いて生じた帯状風偏差の下方伝播を必ずしも再現していないことが示された.したがって,成層圏循環の変化が,直接的に対流圏下部での帯状風偏差を誘起する可能性は小さい. 2.観測された帯状風偏差の下方伝播は,対流圏から上方伝播する波数2の惑星規模波に伴うEP-fluxの収束によって引き起こされる.また,この波数2の伝播特性は,成層圏中ではなく,高緯度の対流圏界面付近の帯状風分布に強く依存する. 3.圏界面付近での帯状風偏差の形成には,対流圏中での波数2の惑星規模波と総観規模波動が重要な役割を果たしている. 一方,より長期間での,成層圏-対流圏間の力学的結合の振る舞いを調べるため,全球気象データを用いて,中高緯度成層圏-対流圏統合システムの変動に対して赤道域QBOが及ぼす影響の統計的有意性を調べた.さらに,2003年1月のSSW発生期間について,気象庁現業予報モデルを用いた予備的な予報実験を行った.また,この予報システムに初期摂動を取り入れて時間積分を実施する手法について検討を行った.
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