平成15年度は、日本の内帯で形成された前期白亜紀の地層の中でも代表的な手取層群と外帯で形成されたほぼ同時代の地層の一つである山中白亜系の野外調査を中心とした研究を行った。特に、河川堆積物の堆積形態に注目し、古河川水文学的特徴の推定を行った。また、これまでの研究で得られている中国大陸東部ならびにモンゴルの前期白亜紀堆積盆地に発達する河川堆積物についての再検討を同時に行った。さらに、前期白亜紀に報告されている植物化石群集の群集特性について再検討するとともに、白亜紀前期の気候変動と陸域環境との関係についての検討も行った。その結果、前期白亜紀の堆積盆地では埋積過程の後半ほど河川システムが縮小化し、年平均流量の減少が広く認められることが明らかとなった。この年平均流量の減少とともに、一部には赤色層の発達がともなわれている。このような地層から読み取れる古河川水文学的特徴と調和的に、化石植物群集から復元される古気候がより湿潤的なものから、季節的に乾燥した気候の発達する環境へと一つの堆積盆地の古水文学的環境が時代とともに移り変わっていったことが明らかとなってきた。さらに、東アジアの古気候においては、すでにこれまでの研究から明らかにされているように、前期白亜紀の後期ほど湿潤な環境の卓越した地域が北方へ移動している。このような古環境の変遷は、当時の地球環境が大きく温暖化に向かったことに加え、アジア大陸北方に存在したモンゴル-オホーツク海の消滅というテクトニックな要因にも大きな影響を受けたものと考えられる。
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