研究概要 |
野尻湖底で採取したオールコアボーリング試料を用いて,有機炭素・全窒素分析および花粉分析を行い,5万7千年前までの気候変動を30年〜50年の精度で分析する作業を2004年3月に完了した.この結果は,MIS3ステージの初期から現在までの詳細な気候変動を明らかにしており,グリーンランド氷床の酸素同位体の変動と同じ精度の、かつよく似た変動パターンを示すとともに,気候変動のタイミングや強度に微妙な差異のあることも判明している.この資料は東アジアにおける大気の変化を直接的に反映した資料として気候変動の地域差とシステムを解明する上で重要であると共に,鬼界アカホヤテフラからDKPテフラにいたる指標火山灰を用いた対比を通じて,日本における標準的な気候変動パターンを示すことができるという点でも重要である.2.5万年前までの成果については公文ほか(2003)で公表した.後半の成果については,その一部を公文(2003)で予察的に示したが,共同研究者とともに詳細な論文としての投稿準備を進めている.また,全体を通した成果は第32回IGC(イタリア)で発表する予定であり,同時に論文化を進めている. 一方,次の段階では10万年前までの気候変動復元を目指しており,長野市南西部の信更町高野に分布する高野層を研究対象として選定した.高野層は泥質堆積物を主体としており,姶良TNからAso-3までの指標テフラがあることが確かめられている.また,現在の標高が750mほどの山間部にあり,MIS5〜3にかけての激しい気候変動を解明するのに適していると考えられるからである.そこには約40mの厚さの堆積物があることや,有機炭素含有率や花粉組成,珪藻組成等の分析によって気候変動の解明が期待できることも予察的な分析によって確認した.
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