研究概要 |
善光寺地震で形成された涌池の堆積物を採取し,有機炭素(TOC)含有量の年代変化と長野気象台における120年間の気象記録との相関を調べたところ,年最低気温および年平均気温との間に有意な相関が認められた. 長野市信更町に分布する高野層についてオールコアボーリングを実施して,54.4mの柱状試料を採取した.試料の回収率は99%ほどあり,おもに均質なシルトから構成されていた.ATの直下付近からAso-2までにいたる広域テフラが含まれていることが判明した.このことから,高野層が最終氷期の前半から最終間氷期以前にまで遡る連続的な試料であることが確認された.このような優れた試料であったので,全国の研究者に呼びかけ,最終間氷期の気候変動に焦点を当てたワークショップを開催した.ワークショップの参加者を中心として共同研究を組織し,試料の計画的な配分を行うとともに,有機炭素や有機物,リグニン,花粉組成,有機炭素,テフラなどの諸側面から,古気候変動を解明する計画が立案され,実行に移された.公文の研究グループは,全層準にわたって3500個以上のTOC分析をおこない,MIS 3からMIS 6にいたる気温変動を詳細に明らかにした.その気温変動は50cmおきに分析した花粉組成からも支持されることがわかった.テフラの予察的な分析からは,DKP,Epm,Pm2B,Ata,Dpm,SK,Aso-2などの広域テフラが含まれることが確認された.今後,これらのテフラを鍵として他地域との詳細な対比を行うことによって,高野層の資料を日本列島における古気候変動のひとつの「標準」とすることができる見通しを得た. 富栄養湖である諏訪湖についても採取した柱状試料にもとづいて堆積過程や堆積速度の解明を進めるとともに,過去百年間の気候変動が,TOC含有量に反映していることを確認できた.
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