研究概要 |
長野市信更町の高野層から採取した53.88mの柱状試料について,厚さ1cmごとに全有機炭素(TOC)および全窒素(TN)の含有量を測定した.また同時に,柱状試料に挟まれている多数のテフラについて長橋良隆博士の協力を得て予察的な分析をすませ,DKPからAso-2に至る主要な広域テフラの層準を確認した.指標テフラの年代を基にして堆積物の年代を作成した結果,高野層は約4万年前から18万年ほど前までの連続的な堆積物試料であることが確認された.その中で,従来Aso-3とされていた指標テフラはAso-ABCDであることが明らかとなり,Aso-3の層準を巡る混乱が解決された.TOC・TNでは5000個弱(平均25年間隔)の試料が測定され,MIS 6からMIS 3前半に至る気候変動(寒暖変動)が詳細に復元された.その変動は巨視的にはSPECMAPの海洋酸素同位体比曲線と一致し,12万年前以降の細部においてもグリーンランド氷床コアが示す亜氷期・亜間氷期変動に対応する数百年〜数千年周期の変動を表している.これは極東アジアの陸域で解明された気候変動資料としてはもっとも詳細でかつ長期間にわたるものである.また,指標テフラを鍵として他地域との詳細な対比を行うことができるので,高野層の資料は日本列島における古気候変動のひとつの「標準」を提供することができる.これらの成果は,2005年度の地球惑星科学合同大会(幕張)や日本第四紀学会2005年大会(松江),日本地質学会学術大会111年大会(京都)で発表した.また,テフラ分析,花粉分析,脂質分析,リグニン,有機シリカ量測定などの,同時に進行している共同研究の成果を共有し,また,更新世後期の気候変動の研究を推進するためにワークショップを開催した(2005年11月19-20日).
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