研究概要 |
昭和28年に豪雨によって数多くの崩壊・土砂災害が発生した滋賀県信楽町において,花崗岩の風化と崩壊発生メカニズムの解明・崩壊発生予測のために,水文観測を行った.風化花崗岩斜面に掘削された横ボーリング孔からの湧水をほぼ2年間観測した.観測項目は,湧水量,電気伝導度,化学組成,pH,雨量,および土中水の間隙水圧,表層部の緩み帯の変位速度であり,観測の結果降水の地中浸透挙動と変位-降雨関係とが明らかになった.累積雨量30mmを超えるような降雨イベントでは,降雨直後に降水が短絡経路を通って地下水面に到達し,地下水表層部の電気伝導度を一時的に低下させる.ただし,累積雨量が小さいとこのような短絡流下は認められない.降雨終了後には浸潤前線の下降とそれによる不飽和帯空気圧の増加によって毛管帯にある間隙水が下方に押し出されて地下水面に達する.その結果,地下水表層部の電気伝導度は上昇していく.その後に降水自体が地下水面に到達して,地下水の電気伝導度は低下する.毛管帯にある間隙水のシリカ濃度はクリストバライトの沈殿によって制御されており,その上の土中水のシリカ濃度よりも低い.逆にカルシウムは毛管帯の水で最も高濃度である.土中水の陽イオン濃度は,マサ中の特に斜長石との水-鉱物相互反応とイオン交換反応によって制御されている.斜面表層不飽和帯での多深度での間隙水圧測定によれば,浸潤フロントは硬質のマサ内を1m/30時間の速度で下降する.観測開始の15年前に掘削された斜面表層には緩みとその緩み帯のクリープが認められ,変位は乾燥と湿潤の繰り返しによって進行し,緩み帯内で正の間隙水圧が生じていなくても徐々に進むことがわかった.
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