研究課題
基盤研究(B)
地震発生の直前に断層のある部分から準静的なすべり核が成長して、そして動的破壊へと発達すると実験的に推測されており、かつ地震観測においても断層面上における地震性すべりは不均質であり、その不均質性は地震サイクルを越えて同じパターンを繰り返すことが示されている。しかし、なぜ地震サイクルを越えて不均質性は安定的に存在するのか?また、断層物質や流体はすべり不均質性に、どのように関連しているのかといった事柄はよくわかっていない。それは地震観測で捉えられる地下深部の震源域を直接観察および分析することが困難であることに起因している。本研究対象とした地すべり地帯は、降雨時にのみ間隙水圧の上昇によってエピソディックスリップが誘発される正断層システムであり、すべり動態と断層物質の分析とが両立できる数少ないフィールドである。これを巨大な剪断試験機に見立てて、すべり核の動態およびその物質挙動の役割の解明を目指した。高知県吾川郡吾北村打木の地すべり地帯を対象に、精密動態観測及びすべり面コア採取を行った。2003年8月と2004年7月の高降雨時に孔内傾斜計および孔内水位計によって精密動態および間隙水圧変化観測を実施した。その結果、地すべりは、降雨直後に地下水位が早急に高くなる地点からすべり始め、すべり面の膨張と共に、周辺へ伝播していく様子が観測された。しかもこのすべりパターンは少なくとも2回繰り返して生じており、透水構造と関連したすべり開始点がすべりイベントを越えて安定的に存在することを示している。降雨前と後にすべり開始点の断層をボーリング採取を行し、分析した。その結果、断層面は厚い断層破砕岩帯中に約数10cmの断層粘土層が挟まれており、そこは動態観測によるすべり深度と一致する。降雨後のコアの断層粘土層下部は含水率が上昇しており、X線CT画像では、透水路たるクラックが確認された。断層粘土層の粒度分布分析は、断層粘土が破砕起源であることを示している。すなわち断層粘土層とそこに発達する透水構造は、長期的なすべり破砕作用によって形成されたものであり、透水構造に依存するすべり開始点も、断層岩と共に成熟してきたものなので、短期的なすべりイベントを越えて安定的に存在するのだろう。これはすべり核の安定的存在が断層物質の発達に依存していることを示す、天然断層で初めての例である。