研究課題
基盤研究(B)
適応放散の生態的、遺伝学的プロセスを明らかにするため、小笠原諸島の陸生貝類カタマイマイ属を用いて、種間の生態的、遺伝的性質の分化の様子、および種内での生息場所、形態的な分化の様相を調査した。その結果生態的分化による種分化のため、いったん分化した種が後に生活場所を変化させ、結果的に他種の生活場所と同じになったため、繁殖隔離が消失し雑種化がおきる、というケースが観察された。このように、一時的な種が認められたことは、急速な適応放散の過程が現在も進行中であることを示している。さらにこのような雑種化によって、どちらの親種とも異なる全く新しい形態をもつ集団が出現することがわかった。適応放散の過程では、雑種化が新しい表現型の進化に大きな役割を果たしているのかもしれない。ミトコンドリアDNAを用いて、本土のマイマイ属全種の系統推定を行った。系統解析の結果、関東-東北地方に分布するマイマイ属陸貝では、隆起や海水順変動、氷期の寒冷化などに伴う集団の縮小、拡大、さらに供給地からの繰り返し移住により、著しく複雑な遺伝的変異の構造が成立したことが明らかになった。異質な環境の接点である潮間帯の巻貝ホソウミニナと吸虫類寄生虫(Trematoda)の関係に注目し、ミトコンドリアDNAおよび核遺伝子(ITS遺伝子)の分析を行なったところ、吸虫類寄生虫に多数の同胞種が存在することがわかった。またこれらの吸虫類の多くは、遺伝的変異に明瞭な地理的構造を示さなかった。一方、ホソウミニナは地域ごとに異なる遺伝的変異を持ち、地域間で遺伝子流動が阻害され隔離が進んでいることがわかった。これはホストと寄生虫で分散様式が全く異なることを反映していると考えられる。寄生虫では地理的隔離よりもホストのシフトによる同所的種分化のほうが起こりやすいと考えられる。
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