研究概要 |
1.現生腹足類の原殻形成に関する研究 代表者の棚部、分担者の佐々木は、大学院生の三好 理の協力を得て、淡水生腹足類の1種モノアラガイ(Lymnaea stagnalis)を素材として、初期発生における原殻形成過程について走査型電子顕微鏡と光学顕微鏡を用いて観察を行った.その結果、本種ではトロコフォア幼生期に分化した殻腺から有機質の殻体が分泌され,初期ベリジャー幼生期に外套膜が分化し,外套膜からの分泌によって有機質の殻体が付加成長し,後期ベリジャー幼生期に有機質の殻体が1.5巻き程度まで捩れたあとに殻頂部から殻体の石灰化が起こることが確認された.初期の原殻は単純な付加成長によって形成されるのではなく,また石灰化過程も変態後の終殻の殻体形成とは異なる機構によるものであることが示唆される. 2.化石頭足類の胚殻の微細構造に関する研究 代表者の棚部は、日本学術振興会短期招聘研究員のCyprian Kulicki博士と共同で、欧州、北米産のアンモノイド類の胚殻の成長様式や殻体微細構造を比較検討した。その結果、古生代のゴニアタイト類と中生代のアンモノイド類では胚殻の螺管成長様式に顕著な違いがあることがわかった。また、中生代のアンモノイド類の胚殻表面の疣状突起の分布様式は種類によってかなりの違いが認められた。疣状突起の形成機構については、反転した外套膜原基により外側から分布されたとするTanabe (1986)のモデルがあるが、卵殻の石灰質を含む溶液によって無機的に形成された可能性もあり、今後さらに詳しく検討予定である。 3.現生二枚貝類の原殻形成に関する研究 分担者の伊左治は支援研究員の伊藤の協力を得て、現生ムラサキイガイ(Mytilus galloprovincialis)を素材として、人工授精実験により受精からベリジャー幼生初期までの個体を採取し、軟体部および殻体の形成過程を明らかにしつつある。
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