研究概要 |
手取層群桑島層(白亜紀前期)から産出した,胴体が伸長したものと肢の退化した爬虫類化石を研究することによって,トカゲ類の各系統で独立して起こった胴長化,四肢短縮化の現象を明らかにすることを目的とする.また,そのような現象が進化史上繰り返し起こった背景を理解するために,爬虫類の現生種において肢の退化という形態変化とHox遺伝子領域の変化に相関があるかを明らかにすることを試みる研究である.石川県白山市桑島から産出した胴が伸長し,四肢が退化した爬虫類化石をアメリカ・テキサス大学オースチン校でCTスキャンを行い,恥骨や坐骨など,母岩にかくれて肉眼では見ることの出来ない骨や,肋骨など骨内部の微細構造を確認することが出来た.その結果,本標本はドリコサウルス類に分類出来ること,同類としては世界最古の化石記録であること,ヨーロッパ以外から初めて,非海成層から初めての産出記録であることが明らかになった.ドリコサウルス類はモササウルス類,さらにはヘビ類に近縁であると考えられ,これらの最古の化石記録が白亜紀後期のヨーロッパの海の地層から知られていた.しかし,本研究により,彼らの起源が白亜紀後期のヨーロッパの海ではない可能性が高くなった.また,桑島層の追加標本の剖出,CTスキャン,3次元画像化をすすめ,同層のドリコサウルス類が未記載種であること,同層には複数種の胴が長く四肢が退化した爬虫類が生息していた可能性が高いことわかった.白亜紀前期のアジアの氾濫原において,胴の伸長や四肢の退化が促されるような要因があったかもしれない.桑島層のドリコサウルス類は,胴が伸長していながら,四肢の退化はそれほど進んでいなかったかもしれない.両者の相関関係を発生学的に確認するため,ニワトリの胚におけるHox遺伝子の発現様式を調べた.その結果,Hox遺伝子の発現位置によって,四肢の発達の度合いが著しく異なることまでが明らかになった.
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