研究概要 |
本年度は、天然鉱物におけるキラル(不斉)構造を取り上げた。具体的には、不斉構造のあることの知られているカオリナイト鉱物に関する研究をおこなってきた。層状の結晶構造を持つカオリナイトが平板状の形態を持つことは容易に想像がつく。一方で、配位不飽和な活性サイトを持つ側面がどのように発達しているのかを明らかにすることは、土壌中における金属イオンの吸着特性や溶解などの速度論を理解する上で、またスラリーの力学特性や光学的性質を理解する上で、必要不可欠な問題である。しかし、これまで特に結晶面の不斉や端面の構造はほとんど解析されてこなかったのが実情である。そこで、カオリナイトの三次元形態と結晶構造を正確に対応づけることを目的として研究を進めてきた。試料は結晶性のよい米国Iowa州Keokuk産のカオリナイトで,シリコン基板上に分散させた粉末試料にカーボン膜をつけて観察用試料とした。SEMで一方向に伸長した六角板状の結晶を選び,シリコン基板とカオリナイト結晶からのEBSDパターンを比較することにより,カオリナイト底面の基板からの傾斜角を求めた。その結果カオリナイトは(1)a軸方向に伸張していること,(2)側面はc軸に並行であり底面の法線方向に対して約15°傾斜していること(よってその指数は±(110),±(1^^-0)及び±(010)となる),そして(3)側面にはしばしば±(3^^-0)面が発達していること等の特徴を持つことが明らかになった。この±(3^^-0)面の発達は,カオリナイトの三斜晶系を反映したものと考えることができ,また同時に本試料における不整の少ない積層構造を示している。側面における不斉はミクロスケールであり、分子不斉認識、分子不斉発生に何らかの役割を果たすのではないかと推定した。これと並行して、カオリナイトのスタッキングの影響や力学的性質に関する理論計算を行った。第一原理計算に基づく理論計算によって、それまで実験的には計測が難しかったカオリナイトの力学的性質を明らかにすることができた。
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