2006年度では、下記の3つの系に対して実験を行った。 (1)黄鉄鉱と塩化物水溶液間における多元素同時分配実験:2005年度では、天然鉱物を用いて実験を行ったが、2006年度では合成物を用いて実験を行った。その結果、天然物を用いた場合と基本的に同じ結果が得られ、黄鉄鉱の最適イオン半径はCoとFeの間にあり、Znは負の分配異常を、Niは正の分配異常を示すことが再確認された。 (2)マンガン重石と塩化物水溶液間における多元素同時分配実験:2005年度では鉄重石を用いて実験を行った。その結果、Niが正の分配異常を、Znが負の分配異常を示し、それに加えてMgも正の分配異常を示した。今まで実験を行った鉱物の中でMgが分配異常を示すのは鉄重石が初めてであった。そこで同じ構造を持つマンガン重石を用いて同様な条件下で実験を行った。その結果、マンガン重石は鉄重石と同様な分配挙動を示し、Mgは正の分配異常を示すことが確認された。 (3)玄武岩とNaCl水溶液間における元素分配の圧力依存性:岩石と塩化物水溶液間における元素分配実験に関して既に玄武岩および花崗岩を用いて行い、遷移金属は温度の上昇とともに塩化物水溶液に分配されやすくなることが分かっている。今回は、玄武岩JB-1aを用いて600℃で圧力を0.3から7.5kbまで変化させ、元素分配の圧力依存性を調べた。2kb以下ではテストチューブ型高圧反応容器を用い、5と7.5kbの高圧条件下では、ピストン・シリンダ型高圧装置を用いて実験を行った。信頼を持って分析された遷移金属は鉄とマンガンであるが、いずれも低圧で水溶液に分配され易く、圧力の増加とともにその傾向が小さくなることが明らかとなった。このことから遷移金属は高温・低圧において塩化物水溶液に分配され、鉱化ポテンシャルの高い熱水が生成されることが判明した。
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