本研究においては、異性体分離質量分析装置を開発し、質量選別された炭素クラスターイオンの分離を試みた。開発した異性体分離装置では、飛行時間質量分析計の内部にHeガスを導入できるドリフトチューブセルが設置されている。クラスター源で生成されたイオンは加速された後チューブ内に入射してHe原子と衝突を繰り返しながら電場に導かれて進行する。この進行速度はイオンの幾何学的断面積に依存した移動度によって決まり、その構造の違いによってセルを通過して出てくる時刻が異なる。もともとクラスターイオンは質量によって飛行速度が異なるので、結局質量と構造異性体の両方を空間的に分離することが可能となる。本年度は開発している装置の排気速度を改善した第二号機の開発を進めた。その結果、より構造異性体の分離性能が高いと期待できる装置を完成させることができた。今後はその性能をさらに高めていく予定である。 この研究と並行して、金属錯体型および分子吸着イオン結晶クラスターをはじめとする幾つかのクラスターイオンにおける構造異性体に関連した観測を行った。具体的には、(1)マグネシウム一価イオンとハロゲン化メチルからなるクラスターMg^+-XCH_3の光解離分光と解離ダイナミクスの研究、(2)ヨウ化ナトリウムクラスターイオンNa_nI_<n-1>^+へのアルコール分子吸着とその光解離分光、(3)光イオン化および準安定解離の観測によるアルカリ金属-アクリロニトリル分子系における三分子重合環化反応生成物の同定、(4)窒化ホウ素クラスターイオンB_nN^+の光解離。これらの本研究を通して、あからさまな異性体分離をすることなくクラスターの複数の異性体の共存を確認する分光手法の確立にも寄与することができたと考えている。
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