研究概要 |
植物中に存在する光受容色素蛋白質フィトクロムは,いわゆる「赤・遠赤色光可逆的反応」により,植物の発生や生長,分化等の様々な光形態形成を制御しており,発色団として開環状テトラピロール化合物の一種であるフィトクロモビリン(PΦB)を有している。これまでアポ蛋白質と再構成可能な発色団の合成は極めて困難であったことから,発色団の構造と機能の関係を探究することは不可能であった。そこで本研究では,再構成フィトクロム中における発色団の構造と機能の関係を解明することを目的とし,まず,テトラピロール骨格の構成成分である四つのピロール誘導体(A〜D環)の新規一般合成法の確立と,それらのピロール誘導体のカップリング法を開発し,側鎖カルボン酸が遊離でアポ蛋白質と再構成が可能なPΦBや,従来,代替発色団として用いられてきたフィコシアノビリン(PCB),さらに20種以上のPCB誘導体の全合成を世界に先駆けて達成した。 次に得られた合成発色団とアポ蛋白質とのin vitroにおける再構成実験により,フィトクロムの発色団結合サイト周辺の化学的環境解明と光可逆的機能の発現に成功し,これらの結果を総合して,発色団とアポ蛋白質との間の結合形成の概念図を描くことができるようになった。 さらに発色団欠損重複変異株を用いたin vivoにおける再構成にも成功し,フィトクロムAとBでは発色団の機能が全く異なることを世界で初めて発見するとともに,D環18位におけるビニル基の重要性を指摘した。 また,Agrobacterium tumefaciensから得られるバクテリオフィトクロムAgp1は,植物フィトクロムとは異なるN末端付近のシステイン残基でBVと共有結合していることが見出されていたが,その結合部位は不明であった。そこで種々のBV誘導体を合成し,in vitroでの再構成実験を行うことにより,BVはA環3位のビニル基で共有結合していることを明らかにした。
|