研究概要 |
植物内に存在する光受容色素蛋白質フィトクロムは,生理学的に不活性で赤色光吸収型のPrと生理学的に活性で遠赤色光吸収型のPfrとの間で可逆的に相互変換する光分子スイッチの機能を有する。この「赤・遠赤色光可逆的反応」は,植物の発生や成長・分化などの様々な過程に広く関係して,環境の光情報を植物に伝える重要な役割を果たしており,植物が生きて行くために欠くことのできない調節作用の一つである。本研究では,発色団の構造と再構成フィトクロムの機能との間の相関や,アポ蛋白質と発色団との相対的配置ならびに相互作用などの解明,さらにシグナル伝達機構および光合成系遺伝子発現・調節機構の解明など,この分野を飛躍的に発展させるために,これまで合成が困難とされてきたビリン系発色団の効率的合成法及び立体化学を固定した誘導体の新合成法の確立など,フィトクロムの構造と機能の解明に関する有機合成化学的アプローチを試み,今年度は次のような研究成果を挙げることができた。 1.AB環及びCD環の立体配置及び配座をそれぞれ固定した発色団を合成し,アポ蛋白質と再構成させて得られる人工フィトクロムと天然型フィトクロムのスペクトル的ならびに生化学的比較研究により,Pr型発色団の15位の立体化学はZ-anti,Pfr型はE-antiであり,Pr型の5位の立体化学はZ-synであることを世界で初めて直接的に解明した。 2.15位をZ-antiで固定した発色団とアポ蛋白質を再構成させて得られるホロ蛋白質の良質な単結晶を得ることに成功し,X線構造解析を目指して大きく前進した。 3.分子量12万の植物フィトクロム蛋白質を高純度で単離精製するために,修飾型発色団を担体に結合させたアフィニティークロマトグラフィーの実現に向けて大きく前進した。 4.バクテリオフィトクロムAgp1の光異性化の詳細な反応機構とシグナル伝達機構の解明を目指して,AB環及びCD環部分の立体化学を二重に固定したBV発色団の合成が可能になった。 5.光学活性な発色団を合成するために,これまで本プロジェクトとは独立に開発してきた酒石酸エステルを不斉源として活用する高効率・高選択的なエナンチオ選択的反応を開発するとともに,「シン効果」に関する重要な知見を得た。
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