研究概要 |
イェッソトキシン(YTX)は,下痢性貝毒の原因物質として単離された梯子状ポリエーテル化合物であり,強力な毒性(マウス致死毒性,286μg/Kg)を有する。YTXが膜タンパクに特異的に結合して活性を発現すると推定されているが詳細については不明である。天然からのサンプル供給量が少ないので詳細な研究が滞っている現状にあり,化学合成によるサンプルの供給が切望されている。本研究では,分子レベルでの活性発現機構の解明に役立てることを目的として,YTXの全合成研究を行った。YTXの様に複雑で分子長の長い(〜2.5nm)天然物の全合成を効率的に行うためには収束的合成法の開発が必要不可欠である。昨年度に本研究者は,α-シアノエーテルを経由して二つのエーテル環を構築する収束的ポリエーテル合成法を新たに開発し,6/7/6/6および6/8/6/6四環性モデル化合物の収束的合成に成功した(Tetrahedron Lett.2003,44,7315-7319.)。本年度は,CDEF環部及びFGHI環に本合成法を適用した。各フラグメントのジオールおよびアルデヒドをアセタール化で連結して七員環アセタールへと誘導し,アセタールの位置選択的開裂を経由して鍵中間体であるα-シアノエーテルへと変換した。ニトリルのアルデヒドへの還元,アリル化によりジエンへと誘導した。Grubbs触媒を用いた閉環メタセシス反応により八員環(G環部)を構築し,ヒドロキシル基の酸化を経由してケトンへと変換した。途中で生成するジアステレオマーは塩基性条件下すべて異性化することができた。G環部上のβ-メチル基をアルキル化によって立体選択的に導入し,続く還元的エーテル化により六員環を構築し,FGHI環フラグメントの収束的合成に成功した。同様に,ビニル基の導入,七員環の構築を経てCDEF環部の合成に成功した(投稿中)。
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