研究概要 |
イェッソトキシン(YTX)は,下痢性貝毒の原因物質として単離された梯子状ポリエーテル化合物であり,強力な毒性を有する。YTXが膜タンパクに特異的に結合して活性を発現すると推定されているが詳細については不明である。本研究では,分子レベルでの活性発現機構の解明に役立てることを目的として,YTXの全合成研究を行った。本研究者は,平成15年度にα-シアノエーテルを経由して二つのエーテル環を構築する収束的ポリエーテル合成法を新たに開発し,6/7/6/6および6/8/6/6四環性モデル化合物の収束的合成に成功した。平成16年度には,CDEF環部及びFGHI環に本合成法を適用した。各フラグメシトのジオールおよびアルデヒドをアセタール化で連結し,生じた七員環アセタールの位置選択的開裂を経由して鍵中間体であるα-シアノエーテルへと変換した。ニトリルのアルデヒドへの還元,アリル化によりジエンへと誘導した。Grubbs触媒を用いた閉環メタセシス反応によりG環部を構築した。途中で生成するジアステレオマーは塩基性条件下すべて異性化することができた。G環部上のβ-メチル基をアルキル化によって立体選択的に導入し,還元的エーテル化によりH環を構築し,FGHI環フラグメントの収束的合成に成功した。同様に,ビニル基の導入,七員環の構築を経てCDEF環部の合成に成功した。平成17年度には,全合成のための重要なフラグメントであるABC環部およびIJ環部の合成を検討した。A環部トリフレートと2-フリルリチウムとのカップリング反応,続くフラン環の酸化的環拡大反応,分子内ヘテロマイケル付加反応,および還元的エーテル化によってABC環部の合成に成功した。また,I環部アルデヒドに1,3-ブタジエニルリチウムを反応させ,生じたアリルアルコールのSharpless不斉エポキシ化,ビニルエポキシドの6-エンド環化によりIJ環部の合成に成功した。
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