研究概要 |
これまでに我々は,ホウ素を配位原子とする金属錯体の化学の領域を広げる目的で,数種の遷移金属ボリル錯体を合成し,その反応性を検討してきた.その過程で,最近マンガンボリル錯体がプトロン化によって陽イオン性ボランシグマ錯体を与えることを見いだした. 本年度の研究ではこの反応の一般性を調べる目的で,支持配位子の異なるマンガン錯体,および6族金属(モリブデンおよびタングステン)を中心金属とするボリル錯体のプロトン化を試みた.その結果,数種の第3級ホスフィンを含むマンガンボリル錯体がプロトン化によってボランシグマ錯体を与えることを見いだした.さらに6族金属のボリル錯体も.マンガン錯体と同様に,求核性の弱い対陰イオンを持つプロトン酸の作用で,陽イオン性ボラン錯体へ変換された.しかしながら6族金属の陽イオン性ボラン錯体は熱的に不安定であり,室温付近では急速に分解して,中性ヒドリド錯体へ変化した.この反応は金属上でのボランBH結合の不均等解裂である.出発のボリル錯体によって,プロトン化で生成するボラン錯体の安定性が異なることから,中心金属の電子状態をチューニングすることによりホウ素化合物の活性化過程をコントロールできる可能性を見いだしたことになる.
|