二次元・三次元炭素骨格を有する多核鉄錯体合成およびその物性評価を目標として以下の実験を行った。鉄フラグメントとしては(ペンタメチルシクロペンタジエニル){ビス(ジフェニルポスフィノ)エタン}鉄種を用いた。 まず一次元エンイン骨格を含む二核錯体を合成し、その情報伝達能を電気化学的手法および単離したカチオンラジカル種のICT吸収を元に評価した結果、クラス2ないし3の良好な分子ワイヤーとなっていることを確認した。またオレフィン部の置換基効果については電子供与性置換基がその性能を向上させることを見いだした。 テトラキス(エチニルフェニル)エチレン骨格を含む四鉄錯体を合成し、その情報伝達能の評価を行った結果、架橋炭素数が多いこと、途中芳香族環を二個含むため情報伝達能が低いことが明らかとなった。テトラキス(エチニル)エチレン誘導体について二鉄錯体の四鉄錯体化を試みたが、立体障害により四鉄錯体は得られなかった。テトラキス(ブタジイニル)エチレン誘導体については前駆体となるテトラキス(トリメチルシリルシリル)化合物の単離・同定・結晶構造解析に成功し、18個の炭素原子に広がったπ共役系となっていることを確認した。続いて金属導入を行ったがこれまでのところ金属化された証拠は得られておらず、別法で引き続き金属導入を試みる。 二次元ジフェニルメタンおよび三次元トリフェニルメタン骨格を含む系については、アシル中間体を経る方法によりその合成に成功した。今後その物性について明らかにする計画である。
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