本研究では、炭素骨格を一次元から二次元・三次元に拡張し、様々な二次元・三次元骨格の炭素共役系を含む多核金属錯体の合成とその情報伝達素子としての物性評価を目的として研究を進めた。二次元・三次元錯体は前例がなく、錯体合成自身がチャレンジングな課題であり、従ってその構造・物性については未知の領域であるが、炭素集合体と複数の金属中心の相互作用の様式を分子レベルで解明してその化学的特性を明らかにするとともに炭素共役系の特長を生かした機能開発を行った。 1.二次元・三次元錯体の評価 前年度までの合成研究で得られた二次元(テトラエチニルフェニルエテン錯体)・三次元錯体(シクロファン錯体)の分子ワイヤーとしての機能を評価した。手法としては、電気化学測定に基づく方法および、一電子酸化種の近赤外領域の吸収をもとに算出する方法を採用し、これまで報告されている一次元系との比較を行い、情報伝達の方向性、情報伝達効率を明らかにした。 2.環境感応型置換基の導入 pH変化に感応するヒドロキノン・ジアミノベンゼンを含む分子ワイヤーを合成し、pH変化により情報伝達能が制御されることを明らかにした。また合成の過程でベンゾフラン型錯体が高性能分子ワイヤーとなることを見出した。 またフォトクロミック分子であるジチエニルエテンを含む分子ワイヤーを合成し、光照射により情報伝達能が制御されることを見出し、分子スイッチとして作用することを明らかにした。
|