研究概要 |
光照射下での単結晶X線回折実験において,光照射による結晶の温度上昇を抑える目的で放射光X線と励起光レーザを同期させて断続させる機械的チョッパーを導入し実験装置の改良を行った。これまで励起光の断続なしで測定すると光照射時の結晶温度が光非照射時にくらべ25Kも上昇していたが,光の断続周波数を10-50Hzに設定した場合,最大でも5K程度まで低減した.この結果,これまで温度変化による。格子の膨張で原子座標が変化してしまい検出ができなかった光照射による微小な構造変化が検出できるようになった.この方法で以下のサンプルについて測定した.1.従来の方法で検出可能な試料を比較対象としてテトラキスホスホナト白金(II)複核錯体.2.温度によって光照射に伴う発光挙動が変化するサーモクロミズムを示すハロゲン化銅(I)ビリジン4核錯体.3.d-d禁制遷移に伴い黄-赤の発光を示し,大きなストークスシフトを持つハロゲン化ロジウム(III)ピリジン錯体.白金錯体では光照射時と非照射時を比較した差フーリエ図より光照射による白金原子の動きをより明確に検出できた.銅4核錯体は,光照射による明らかな構造変化は検出されていないが,測定の過程で結晶の温度による4核銅のクラスタコア部分の銅原子間距離が銅-ハロゲン,ピリジン間の距離に比べて変化が少ないことがわかった.原子間距離の変化の差がサーモクロミズムの原因になっていることが推測された.ロジウム錯体は光照射によリハロゲン-ロジウム原子間距離が伸びると予想されたが,差フーリエ図からは,光照射に伴い軸配位子の2つのハロゲン(塩素,臭素)原子がロジウム-ハロゲン結合に対して垂直方向に振動していることを示唆する電子密度分布が得られた.この結果は錯体分子の対称性を変化させることにより本来禁制であるd-d遷移吸収起こす様子が原子の振動となって直接観測されたと考えられる.
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