今年度は、備品として購入したcw Nd:YAGレーザーを中心とする光熱変換光泳動顕微観測システムを構築し、レーザー波長である532nmに吸収をもつCo(III)-PAR錯体を含有する2-ベンジルピリジンマイクロエマルション液滴の水中での光熱変換光泳動挙動について実験、解析を行なった。光吸収性のマイクロエマルション液滴は、レーザー照射によりレーザー進行方向に光泳動すると同時に膨張・収縮を繰り返すという特異な挙動を示すことがわかった。この膨張・収縮の周期は照射レーザー強度および液滴の吸収係数に依存することから、液滴内化学種の定量に応用できると思われる。液滴の膨張運動の機構には光熱変換効果が大きく関与しており、(1)液滴内部での温度勾配生成とSoret効果によるマイクロエマルション相の相分離、(2)液滴内と外部の温度差生成と熱浸透による外部水相の液滴内への取り込み、が大きな要因であることがわかった。しかし、収縮過程については、非常に高速で起こる過程であるためまだ不明な点が多く実験解析を深める必要がある。 また、光吸収性液滴のレーザー照射による温度上昇について以下の研究を行なった。キャピラリーに保持した蛍光色素を含む液滴にレーザーを照射し、蛍光画像を動画として取得した。蛍光強度の変化から液滴内の温度を見積もったところ、液滴内の温度は、液滴の大きさに依存して大きくなることがわかった。この結果は、熱流体シミュレーションの結果と一致した。さらに、蛍光画像を詳細に解析することにより液滴の温度上昇はレーザーの入射側に比較して出射側の方が大きいことがわかった。この温度分布の不均一性は、液滴自身のレンズ効果によると考えられる。この結果は、以前に我々が観測した光吸収性液滴における泳動方向の反転現象がレーザー照射による液滴の前方と後方における温度差が原因であることを示唆している。
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